LIBER STUDIO の関係者に話を聞いて、会社の雰囲気や “中の人” の素顔を様子をお伝えする本企画。第二回は、代表・石田とともに弊社を設立し、10年近くにわたって共に事業をつくってきた赤羽にインタビューします。インタビュアーは、代表・石田です。
― 赤羽さんはリバースタジオの共同創業者ですが、なぜ再び起業を選択したのでしょう?
簡単に言うと、面白そうだったからです。石田さんが再び起業することを聞いていたので、自然な流れで一緒にスタートしました。
― 前職からの流れを簡単に教えて下さい。
はい。自分が大学在学中だった2013年秋、最初はお手伝いのような感じで以前の企業に参画し、そのまま卒業とともに就職、そこから半年くらいで株式会社メンバーズへの売却を経験しました。メンバーズ時代は、最初の5年くらいは売却した企業のメンバーとして働き、最後の1年間は本社に移動して各種プロジェクトにアサインされていました。
― どんな仕事を担当していましたか?
一番長く担当していたのが電力会社の案件ですが、金融機関や食品メーカーなども含めて、様々な事業会社の DX 関連プロジェクトで、ディレクターを努めていました。
その電力会社は、再生可能エネルギー関連の事業をやっていたのですが、最初はマーケティング担当者として広告運用やSEO周りのディレクション、コンテンツ戦略などを担当していました。複数の企業がプロジェクトに参加していたので、その調整をはじめとしてプロジェクトを推進するための幅広い業務を担当していました。
ただ、2020年末から翌年にかけてエネルギー価格の高騰によって、再エネ市場が大きな打撃を受けた際は、マーケティング業務を超えて、顧客対応はもちろん、電力小売や送配電など関係各社との調整、業務フローの改善・見直しなど、事業側に深く入り込んだ業務も担当していました。
― そこから計6年間在籍した前職を卒業して、冒頭で触れたリバースタジオの創業に至るわけですね。
そうですね。改めて、なぜ起業したかと聞かれると難しいですね。前職での業務も非常に楽しんでいましたが、同時に「石田さん、早く(2度目の)起業しないのかな」という漠然たる気持ちもありました。彼が起業する際に、少なくとも声は掛けられるだろうと考えていたので、そのタイミングで参加しようと決めていました。
その意味で前職に残ったり転職したり、自分でチャレンジする選択肢はあまり無く、キャリア選択などに悩むことはなく、リバースタジオの創業に至りました。
情報に関する課題を解いていく
― 事業軸というよりは、人軸として(石田との)創業を選んだ感じですか?
結論としては、そうですね。ただ悪い意味ではなく「石田の人柄に惹かれて」というよりも、彼がチャレンジしたい事業領域や方向性に共感しているので、事業軸とも言えます。ニュース解説メディアの The HEADLINE や情報収集SaaS の Insights は、ぱっと見では分かりづらいですが、やっていることの一貫性があるんですよね。
言語化は難しいですが、情報に関する課題を解こうとしているというか、金子さんのインタビューで「交通整理」という話がありましたが、その感覚に近いですね。
― そういった領域に、昔から関心があったんですかね?
一般論として、情報の整理は好きですね。何というか…複雑な構造や概念が美しく整理されている資料を見ると感動しません?笑
― わかる。笑
歴史に近いのかもしれませんが、史料が残っており、後から検証出来る状態になっている情報は良いですよね。ネットサービスとしては Wikipedia が近いですが、リンクが貼ってあり、ソースが明示されていて、検証可能性や反証可能性が担保されている状態ですね。
― 昔のインターネットっぽい思想ですね。
そうですね。俺、一番好きなウェブサービスは Internet Archive(*)なんですよね。YouTube とか X(旧Twitter)といった、SNS によって急速にデータ量が増えている最近のインターネットには対応できていない問題もありますけど、インターネットの巨大なデータベースやアーカイブを作っている意味で、優れた情報の整理をおこなっているプロダクトだと思います。
(*)インターネットアーカイブ、すでに閉鎖されたページも含めて保存された時点のウェブページを閲覧できるサービス。
“ハック”がもたらした功罪
― インターネットやスタートアップに興味持ったのはいつからですか?
前職というか、最初に石田さんの会社に入ってからです。大学生当時はスタートアップや資金調達といった概念も知らなかったので、業界に何となく入って、スタートアップに関する書籍とかを読んでいるうちに、少しずつ理解していきました。10年前は、VC やスタートアップの存在感が少しずつ大きくなっていた時期だったので、良いタイミングだったと思います。
スタートアップの文脈で言うならば、当時からハックという考え方は好きでしたね。既存の仕組みや方法論の裏を行って、戦いに勝つとか利益を生み出すとか、そういう考え方は2015年頃のスタートアップに色濃くあったように思います。
少し話が逸れますが、最近はハックという単語を使いづらくなりましたよね。
― なりましたね。
2015年頃は、著名VC・Y Combinator の創業者であるポール・グレアムが大人気でしたし、彼の書籍『ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち』が広く読まれて、ある種スタートアップといえばハックだ、みたいな思想がありましたよね。それが、10年が経過して業界も考え方も凄く変わった感じがあります。
― その変化はどう捉えていますか?
ハックという考え方が過剰に流布している状態は、良くない面もありますよね。たとえば今、ウェブメディアには広告バナーが溢れています。ある面では、この状況はハックの行き着いた先だと思っており、必ずしも良い結果を生んでいるとは思わないですね。
ただ世の中には「ショートカットをして事業を伸ばしていきましょう」とか「もっと効率を上げましょう」といった考え方が必要な局面は沢山あるので、必ずしも悪者ではない部分もあります。
― たしかに広告に汚染されている側面もあるけど、ウェブメディアとしては収益源としての広告モデルの先を生み出せていない、ある種のハックを生み出せていないからこそ今の厳しい状況にある、というのも事実ですしね。
そうですね。それで言うと、やはりWELQ問題(*)を契機としてウェブメディアの運営や収益性に行き詰まりが出てきたことは大きいですよね。
記事コンテンツを量産して、ある種のハックによって収益を生み出すビジネスモデルに注目が集まったものの、結果的に大きな社会問題となって、その方向性が間違いだったことが露呈しました。構造や倫理、法的な問題が明らかになったことはもちろんですが、同時にウェブメディアの収益性や持続可能性についても、限界が見え始めた時期でもありましたね。
(*)WELQ問題とは、株式会社ディー・エヌ・エーが運営するウェブメディア WELQ を中心として、同社が運営するキュレーションメディアに無断転載や不正確な記事の粗製濫造などが多数確認された問題。2016年に発覚し、全キュレーションサイトが閉鎖された他、第三者委員会による調査報告書が公表された。
― 当時、WELQ問題を批判していた BuzzFeed News も閉鎖してますしね。当時は、新聞や雑誌などの伝統的なメディアから「だからネットメディアは駄目だ」という声もありましたが、結果的に伝統的なメディアも含めて、デジタル時代に紙の落ち込みをカバーする収益モデルを生み出せていませんね。
そうですね。その意味で、広告の先にある収益モデルを生み出さなければ、メディアの未来は厳しいと長年言われていますが、自分たちにとっては10年間に渡る宿題ですね。
― かといって、リバースタジオをはじめた時、我々もその答えを持っていなかったですよね。
そうですね、当時の事業は The HEADLINE だけだったので、それだけでは厳しいとは思っていました。ただ、そこは何とかなるんじゃないかという気持ちもあり、結果的に Insights が生まれて、今は広告モデルの次を模索できている気がします。
AI による情報の分類・評価・抽出
― そうですね。赤羽さんは、実際に Insights で主要な役割を担っていますが、どんな業務を担当していますか?
情報収集 SaaS の Insights ではディレクションを担当しています。日本を代表するエンタープライズ企業からスタートアップまで多くのお客様から引き合いを頂いていますが、その打ち合わせでヒアリングしたお客様のニーズに対して、それをプロダクトに落とし込むような作業を行っていますね。
具体的に言うと、例えばお客様から「食品業界や小売業、メーカーなど業界ニュースを集めて下さい」といったシンプルなニーズを頂くこともあれば、「特定の事件・事故のニュースを集めて下さい」とか「競合企業に関連するデータや情報を集めて下さい」、「◯◯分野の新商品の発売情報を集めて下さい」など、様々なニーズを頂きます。
報道やニュースに限らず、「官公庁や行政による通知・通達、あるいは審議会の議事録を集めて下さい」とか「あるブランドに関するネガティブな情報をソーシャルメディアや YouTube から集めて下さい」というニーズもあります。
― 本当に企業ごとに幅広いニーズがありますよね。
そうですね。そのうえで、報道機関のニュースや SNS の情報はもちろん、オンラインにバラバラに存在している膨大なデータや情報を収集して、集めた情報を GPT をはじめとする LLM(大規模言語モデル)によって分類・評価・抽出をおこないます。
もちろん、その作業は人間ではなくテクノロジーがおこないますが、その評価や抽出、分類などのプロセスには、人間によるディレクションが欠かせません。お客様のニーズやイメージと擦り合わせながら、期待した情報収集が実現できているかを確認し、最終的に企業ごとのフィードをつくりあげていきます。
― 情報収集 SaaS と呼んでいますが、少しイメージしづらいプロダクトではありますね。
現状、世の中にはあまり存在しないプロダクトだと思います。企業版の Gunosy や SmartNews とも言えますし、ネガティブ情報の抽出だけに絞ればソーシャル・リスニングの一種でもあります。エネルギーや株価、コモディティ価格などのデータを集める場合もあるので、その意味では Bloomberg などの金融向けの情報サービスに近い部分もあります。
ただ、我々の一番コアである部分、すなわちオンラインにある膨大な情報を取得して、分類・評価・抽出します、という部分を既存サービスになぞらえて表現することは少し難しいですね。
― ソーシャル・リスニングや金融向けサービスなどのバラバラに存在していたプロフェッショナル・サービスをまとめて、再定義している感覚ですよね。
そうですね。ではなぜ、そうしたバラバラに存在するサービスを統一して、情報の分類・評価・抽出が出来ているのかを考えると、やはり OpenAI の登場などによって一気に AI をカジュアルに使えるようになった変化が大きいですよね。
そういった点も含めて、最近では Insights を「高機能RSS」という呼び方で紹介していますが、それまで RSS が出来なかったことを AI を組み合わせることで、一気に業務活用が現実的になったという印象を持っていますね。
― 大きな変化ですね。
そうですね、だからこそ手応えもあります。先ほどもありましたが、日本を代表するエンタープライズ企業からスタートアップまで多くのお客様から毎日お問い合わせを頂いています。ニーズがあることは分かっているので、そこに応えられる人的リソースを早く用意する必要があると強く感じています。
モノづくりへの強い意識を持って
― 人的リソースの話が出ましたが、これからどんなチームをつくっていきたいですか?
現状では、石田さんや金子さんなど似たような属性の人が集まっているチームですが、色んなスキルやキャラクターの人材によって構成されるチームにしたいです。チームが10人20人と増えていく中で会社の構成や雰囲気は変わっていくはずなので、その変化に期待しています。
もちろん思想とかヴィジョンは石田さんを中心として、今後もあまり変わらない気がしますが、チームの雰囲気は変わっていくと思いますし、それが望ましくもあり、楽しみな点でもあります。
ただカルチャーとしては、金子さんも先日のインタビューで触れていましたが、プロフェッショナル意識は強いように思います。
― と言うと?
現状の会社の状況やサービス品質、プロダクトの完成度に対して満足しておらず、良いモノをつくりたいという意識ですかね。The HEADLINE の記事を見ていると、自社サービスながら、その品質に驚くことも多いですが、すべてのプロダクトに対して同水準のクオリティを求めていきたいですね。
― 確かに、プロダクトだったりモノづくりへの意識は強いチームですよね。
そうですね。たとえばコンサルティングだったりサービス業だったり、そういった事業でも品質が重要なのは間違いないですが、優れたプロダクトを通じて問題解決がしたい、という意識もあります。さっき Internet Archive や Wikipedia といった渋い名前を出しましたが、そうしたプロダクトが好きであることも関係してそうですね。
それから、最近は「技術的に面白そう」という点も考えるようになりました。AI のカジュアル化によって情報の分類・評価・抽出が可能になった、という話をしましたが、テクノロジーの変化によって生まれる事業領域には関心を持っています。
― そうした部分に共感する人を集めていきたいですね。
そうですね。今まで話してきたトピックの中で、何か1つでも引っかかりがあると良いと思います。
最後にプロフェッショナル意識に話を戻すと、たとえば石田さんが担当しているセールスだったり、自分が担当するディレクションだったり、各々が担当している業務は異なるものの、それぞれ自分の仕事を突き詰めることの重要性を感じていますし、そうした価値観が強いチームだと思います。チームとして、その価値観や意識がこれからも維持されるのは重要だと思います。
それは専門性というよりも、特定領域での学習スピードだったり、事業に必要なことは何でもやるというマインドだったり、専門性を身につけるまでの距離感に近しい感覚かもしれないですね。そういった考え方に共感する方と、一緒にプロダクトをつくることが出来れば嬉しいです!
― ありがとうございました!
ありがとうございました!